研究ノート


 愛媛県におけるオオヨシキリの分布
山本貴仁 

 オオヨシキリ(大葦切)は、河川敷やため池など、ヨシの繁る環境に生息する夏鳥です。主な越冬地は東南アジアとされ、愛媛には4月中旬から5月上旬に渡ってきます。雄は「ギョギョシ、ギョギョシ」という大きな声でさえずるので、姿よりも鳴き声でその存在を知ることができます。この鳴き声から、オオヨシキリは「行々子(ぎょうぎょうし)」として俳句の夏の季語にもなっています。

オオヨシキリ雄
オオヨシキリ雄 西条市飯岡祖父崎池

 愛媛県が2003年に刊行したレッドデータブックでは,オオヨシキリは注目種とされ,今後、生息状況に留意すべき種とされています。近畿地区及び瀬戸内海沿岸各県のレッドデータブックでも、オオヨシキリの生息環境は消失する危険度が高いとされ、近畿地区および山口県では準絶滅危惧種、岡山県では希少種とされています。しかし、これまでに愛媛県に、どのくらいのオオヨシキリが生息しているのかが調べられたことはありませんでした。生息数が増えた、減ったという評価をするには、ある時点での分布を明らかにしておく必要があります。

 そこで、2005年4月から8月にかけて、愛媛県内のオオヨシキリ分布調査を行いました。4月中旬頃から大きな鳴き声を頼りに、オオヨシキリを探します。生息が確認された場所は、都道府県別メッシュマップの基準地域メッシュ(3次メッシュ、約1km×1km)、観察された日、時間、個体数を記録しました。愛媛県が含まれる第2次地域区画(2次メッシュ)は111メッシュあり、ヨシが生育していないと思われる、山間部や島嶼部などを除く50メッシュを調査しました。また、過去5年以内の観察記録も集めました。

 2005年は、4月24日に松山市の重信川河川敷で鳴き声が聞かれ、西条市でも4月29日に確認されました。オオヨシキリは夜間にもさえずり、6月19日に西条市加茂川河川敷のヨシ原では、午前0時に5個体以上がさえずっているのが確認されました。調査を行った50メッシュのうち、オオヨシキリが確認された2次メッシュは21メッシュで、3次メッシュでは56メッシュでした。生息が確認された場所は、全てヨシが生育する環境で、その他の環境では観察されませんでした。生息が確認された3次メッシュを地域別にみると、東予地方が29メッシュ、中予地方が17メッシュ、南予地方が10メッシュと、東予地方に多いことも分かりました。これは、東予地方を流れる関川、国領川、加茂川の下流域に比較的面積の広いヨシ原が存在することが関係していると思われます。しかし、東予地方では小規模なヨシ原にもオオヨシキリが生息していました。中予や南予にも同じような広さのヨシ原はあるのですが、そちらでは見られませんでした。ヨシ原の広さだけがオオヨシキリの生息の有無を決めているようではないようです。

 調査を進めて行くなかで、以前には生息していたものの、埋め立てなどで生息地がなくなってしまったという所がありました。ヨシ原は開発による消失だけでなく、河川内では台風などの増水により消失することもあり、安定した環境とはいえません。ヨシ原で巣をつくり、産卵、子育てをするオオヨシキリは、ヨシ原がなくなってしまうとすむことができなくなってしまいます。今回のような分布調査は地道な調査ですが、短期間に集中して行うことで、今の生息状況を捉えることができます。こうした分布調査を他の種類でも行うことで、今後の愛媛県における鳥類の保全策を考える基礎資料になればと考えています。

愛媛県におけるオオヨシキリの分布

やまもと・たかひと/主任学芸員・動物担当

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