ここにも科学

 星空マニア
鈴木 麻乃

はくちょう座ブラックホール

 梅雨明けの7月末。東の空に大きな十字架を描くのは、夏の代表星座、はくちょう座である。星雲、二重星など話題に事欠かない星座であるが、この星座にブラックホールが潜んでいることを皆さんはご存知だろうか。

 何でも吸い込む真っ暗な穴。皆さんのブラックホール(以下、マニアっぽく「BH」とする)に対するイメージはこんな感じだろうか。「本当はどうなんですか」とよく聞かれるが、ものすごく簡単に説明すると、やっぱり「何でも吸い込む真っ暗な穴」になってしまう。詳しい説明をするには紙面が足りないので、今回は皆さんの持つBHのイメージのままで読み進めてほしい。

  BHは最初、数式の中で発見された理論上の天体であった。はくちょう座X-1ところが、候補天体すら見つからないまま55年の時が過ぎる。天文学者ですらほんまにあるんかいなと思い始めた頃、1971年に世界で初めて発見されたのが「はくちょう座X-1」だったのだ。

  はくちょう座X-1は、はくちょう座の首のあたりにある。当然のことだが、肉眼では見えない。しかし、私はそこにBHの存在をイメージする。8000光年離れたそこには漆黒の闇を持つ宇宙の穴があり、周囲のガスや塵を驚くべきスピードで飲み込んでいる。そこから放射される強いX線。手の平をはくちょう座に向ければ、かすかに感じることができる。いや、最後のは冗談だが、今度はくちょう座を見上げるとき、そこに確かに存在するBHを想像してみてほしい。星座を張り付けただけの夜空のドームが、突然奥行きを持った宇宙空間に感じられるはずだ。星座など見飽きた、という星空マニアなあなた、こんな楽しみ方はいかがだろうか。

  ところで、皆さんはBHをものすごく巨大な穴だと思っているのではないだろうか。実は、BHは意外に小さい。はくちょう座X-1の大きさは、直径60km。広大な宇宙の中で、たったの60km?!なーんだ、BHもあんまり迫力ないや、とがっかりさせたなら申し訳ない。

BH参考書籍「ブラックホールは怖くない?」福江純著、恒星社厚生閣
すずき・まの/学芸員・天文担当


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