研究ノート

 ●「最近見かけなくなったけれど…チャマダラセセリ」
学芸課 自然研究科 学芸員 大西 剛

 みなさんはセセリチョウという蝶をご存じでしょうか?
 小さい体に地味な茶色のはね、先のとがった触覚など、蛾だと思った方も多いのではないでしょうか?今回はそんなセセリチョウの仲間のひとつ、チャマダラセセリの話をしたいと思います。
 チャマダラセセリは、セセリチョウの中でも小さい種類で、はねを広げても3cm足らずしかありません。茶色いはねに白いまだら模様があるので、チャ(茶)マダラ(斑)セセリという名前がついています。成虫は春と夏の2回発生し、はねの模様も春型(写真1)はまだら模様が多いのに対し、夏型(写真2)は少なくなり黒っぽく見えます。
チャマダラセセリ春型
▲写真1
チャマダラセセリ春型
チャマダラセセリ夏型
▲写真2
チャマダラセセリ夏型


 幼虫はキジムシロ(写真3)やミツバツチグリという植物を食べて育ちます。これらの植物は、山地の日当たりの良いクリ畑やシキミ畑に生えているので、チャマダラセセリもそのような場所にすんでいます。
 春に発生した成虫は、黄色い花を咲かせたキジムシロやミツバツチグリからあまり離れず、地面の近くをちょろちょろと飛び回ります。体が小さい上に、はねの色が地面と同じ茶色をしているので、ちょっと目を離すと分からなくなってしまうほどです。
幼虫の食草キジムシロ
▲写真3
幼虫の食草キジムシロ


 チャマダラセセリは、かつて北海道から四国にかけて広く分布していました(図1)。生息地が北海道の東部、本州の東北・中部山岳地帯、そして四国とかけ離れているのが特徴で、生物地誌的な研究対象として貴重な種とされています。中でも四国に生息しているチャマダラセセリは、他の場所と分布が大きく離れており、はねの模様も少し違うことから、亜種「shikokuensis」として区別されてきました。
 ところが最近、チャマダラセセリは全国各地で姿を消し始め、現在では環境省レッドリストの絶滅危惧I類に指定されるまでになりました。四国でも、かつて生息していた高知、徳島の両県では絶滅が確認され、最後の生息地となっていた松山市東部の山間部でも1990年代半ばから数が減り始め、年間数頭しか確認できない状態になってしまいました。2003年には愛媛県レッドデータブックの絶滅危惧II類にも指定されました。
 減少の原因として、山間地のクリ畑やシキミ畑が放置されて荒廃した結果、幼虫の餌であるキジムシロやミツバツチグリが生える環境が減少したことに加えて、新たな道路の建設、農薬の影響、マニアによる捕獲などが考えられています。
 このままでは愛媛のチャマダラセセリ、つまり四国の亜種は絶滅してしまうおそれがあるため、県内の昆虫愛好家や蝶の研究団体である日本鱗翅学会の協力で、2002年より生息地の環境整備などの保護活動が始まりました。
 日本で亜種のレベルで蝶が絶滅したことは今までにありません。「四国」の名を持つ蝶がその最初のケースにならないよう、今後も適切な保護が必要です。
チャマダラセセリの分布図
チャマダラセセリの分布図 ▲図1 チャマダラセセリの分布図

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