話題提供
「強い磁石とのかかわり」

 磁石といえば、たとえば冷蔵庫に引っ付いているあの丸や四角の黒いやつを思い出すでしょう。一家に一つといわず身の回りにたくんありますね。このように塊になった磁石を永久磁石を呼んでいます。永久磁石には、日本人のアイデアが昔から生かされています。

【写真1】ネオジム磁石の強力な磁力。小型の家電製品から大型の計測機器まで、現在幅広く利用されている。

話題提供
【写真1】
話題提供
【写真2】
 磁石はかつて、その名のとおり石でした。磁石を蓄えている石があるのです。石といってもどこでも手に入る訳ではありません。質のいい磁石が取れるところは限られています。今のように磁石が一般的になっているのは人間が磁石を作れるようになったからです。

【写真2】かつて磁石はその名のとおり石だった。写真は当館収蔵の磁石、磁鉄鉱。

 磁石を作ることは難しくないですね。針金や釘を1つ用意して、磁石を引っ付けることでそれらは磁石になります。これを磁化といいます。磁石を作り出す方法は基本的にこれでおしまいなのですが、問題はこうやってつくっても、すぐ磁石の性質をなくしてしまうことにあります。実験すればすぐにわかりますが、磁力は小さく、ちょっとした刺激でもとの磁力をなくします。いい磁石を作るには強い磁力を蓄えられること、磁力を失いにくいことが条件になります。このような能力を磁石の性能といって、性能の高い、いい物質を作り出さなければなりません。
 20世紀のはじめの1917年、日本で性能の高い物質を作り出すことに成功した人がいました。本多光太郎です。KS鋼と名付けられた当時世界最強の磁石は、世界的にも注目されました。磁石は発見から数千年も経っていたのですが、この発明を契機にわずか100年たらずで急速にその性能を進化させます。そこには日本人研究者と深い関わりがあります。今でもたまに見かける固く銀色に光るアルニコ磁石は、三島徳七の製作したMK鋼が原型です。メモなどを貼りつけることに使うあの黒い磁石、フェライト磁石の原型は加藤与五郎らによるOP磁石です。ともに1930年頃の発見です。そして、現在世界最強の磁石、ネオジム磁石を発明した人も日本人、佐川眞人です。この磁石はごく最近の1984年に作られました。ネオジム磁石、今では強力(高性能)磁石の代名詞ですが、フェライト磁石と同じくらい多く生産されています。その割には私たちの生活に登場しない?いえいえ、そんなことはありません。この磁石も一家に一つといわず、必ずお世話になっている磁石なのです。強力高性能な磁石は小さくても充分にその能力を発揮するので、小型の電子機器のモーターなどに必ず使われています。パソコンのハードディスクやオートフォーカスのカメラ、ヘッドフォンステレオや、MD・CDプレーヤー、携帯電話まで必ず入っています。フェライト磁石と使い方が違うので、目立たないだけなのです。
話題提供
【写真3】
話題提供
【写真4】
【写真3】ハードディスクの内部。赤で着色した部分が強力磁石。磁石が見えなくなるまでクリップが引っ付く。


【写真4】携帯電話の内部には着信を知らせる超小型モーターがあり、その内部に高性能磁石がかくれている。小さくても強力な磁力を持つ。

 強力磁石、日本人が強く貢献したこの科学技術については、平成12年12月9日(土)から開催される当館の館蔵品展「夢と科学のたどった道-20世紀-」に展示されます。磁石はどこに隠れているのか、ぜひ確かめに来てください。

(学芸員 久松洋二)


back
戻る